20数年前に手術を受けたとき、雑談で医師に「先生がプロのお立場から見て一般的に完全に成功したと思われる手術の比率はどのくらいですか?」とお聞きしたことがあります。執刀医は女性で業界でも名の知れた方でした。「60%くらいかな?」「えーっ、そんなにありますか?私は半分以下かと思っていました。」「あなたはずいぶん寛容な方ですね。」

 他人にこのお話をすると「ずいぶん恐ろしい会話を当事者どうしで平気でよくするものですね」と言われてしまうのですが、この話のポイントは「視点」にあります。患者の私から見れば予後が多少悪かろうと、再手術になったり、身体が不自由になったりしない限りは「成功」と言えるでしょうが、医師から見ればもっと高次元での「成功」「不成功」があるのではないかと思ったからです。

 案の定、手術後「あら、まっすぐに切ったつもりなのに、ちょっとまがっちゃったわね。どうしたんだろう。。。」ほうらね、先生から見ればもう「完全」ではなくなっているはずです。

 これを私の仕事にあてはめて考えると「完全な成功」と思えるのは数えるほどしかありません。失敗しないという自信はとてもあるのですが、「もっと短時間でできなかったか」とか「交渉の詰めが少し甘かった」などと、ぼろぼろと反省点が出てきて情けなくなることがあります。年を重ねるごとにこの反省のハードルも高くなって来るのでいつまでたっても簡単には満足はできず、上記の医師の「60%」が羨ましくなります。

 たぶん「ものづくり」においても同じだと思います。売れて利益が出れば満足するような企業なら進化も継続もないでしょう。プロほど「完全な」成功率は低い、それが成長への力と私は思うことにしています。